蒼夏の螺旋

   “今夜はお鍋vv”
 


だからさ、
俺は肉をガッツリ喰いたいから すき焼き派なんだけど、
ゾロは晩酌したい派だから、
ちり鍋とかあんこう鍋とか好きなんだよな。
俺も、フグとかカニとかなら
ポン酢につけて“うんま〜いvv”って堪能もすっけど、
アンコウはあのぷるぷるがちょっと苦手だし、
肝? あれが格別だ〜とか言って、
熱燗が進む進むっていうのがよく判らん。
でサ、あと白子も好きだよな。
クリームチーズみたいに濃厚なのがトロ〜ッてなって
そりゃあ美味いんだぞ〜って言うんだけど、
俺はちょっと、
歯ごたえのないものは
飯のおかずとしては食指が動かないっていうか。
間を取っておでん?
どの辺が“間”なんだ?それ。
おでんはもうさんざん食べてるぞ。
うん、どうかすると夏場から、コンビニとかでも置いてるしな。
そうなんだ、
ちょっと昔は駄菓子屋でも売ってたのへの回帰っていうか、
え? そんな難しい言葉よく知ってたなって?
うっさいなっ、こんくらいは知ってるぞ
そうじゃなくて。
昨夜辺りから急に寒くなったんで、鍋もいいかなぁって思ってサ。
豚キムチ? それは昼にしょっちゅう食ってるからパス。
湯豆腐? それっておかずになるか?
豆乳鍋? 結局はちり鍋じゃんか。
う〜〜〜〜ん、どういうのがいいのかなぁ?
じゃあすき焼きでいいじゃないかって?
うん、いや、俺も最初はそう思ったんだけどさ。
でもな、今日はゾロの誕生日なんだよな。///////
あ、うん。ありがと。ゆっとくわ。
だから、酒もいいのを揃えたし、
最近気に入ってる、炙ったカマスゴの三杯酢も作る予定だし、
で、メインをどうすっかなんだよな。
うん、ゾロもすき焼きは食うけどサ。
あれって、コンニャク入ってんだろ? そう、しらたきってのか?
ゾロ、苦手なんだよな、あれ。
せっかくの誕生日なのに、
そんなもんが入ってるのを
箸で避けて食べさせるってのも何だしなぁって

 「……お前は何をまた、
  見ず知らずの相手へ俺の苦手まで話しとるのかな。」

 「あ。ゾロお帰り。」

見ず知らずじゃねぇもん、
この人、ここの鮮魚部門のチーフだもん。
カマスゴの焼き加減を教えてくれたんもこの人なんだぞ?
さっきも、
ゾロが誕生日だって言ったら
“おめでとうございます”って言ってくれたしよ……。




     ◇◇



ルフィ奥さん、
延々と独り言を言ってたわけじゃあないので念のため。
行きつけの大型スーパーで、今夜の御馳走を見繕いつつ、
何か寒そうだぞという話をして見送ったご亭主だったこともあり、
今夜は鍋だと決めたはよかったが、
特別な晩なだけに、自分の一存で決めるのもなぁと、
ややもすると迷いあぐねた挙句、
売り場のチーフさんへ相談を持ちかけていたわけで。

 「お前ね、あんまりそうそう
  プライベートなことをあちこちでばら撒くんじゃねぇよ。」

今日は早い目の帰宅となったご亭主で。
帰り道の途中にあるスーパーなのでもしやと思って覗いたら、
細目コーデュロイの七分パンツにカラフルな横縞のタイツ、
バックスキンのショートブーツも軽やかに。
見覚えのあるキャメルのハーフジャケット姿という、
目当ての奥方がいたのは良かったが、
選りにも選って、あんな話題で盛り上がっていたというワケで。

 「プライベートなことったって、
  そんな大した話はしてねぇじゃんか。」

会計の済んだ荷物をトートバッグへ詰めつつ、
やや口元を尖らせて奥方が言い返したが、

 「何でよその兄ちゃんに、俺の苦手を教えてんだよ。」

スーツ姿でそれをするとやや恐持てになる
“不機嫌です”というお顔のゾロの言いようへ。
ああそこかと、ドングリ目をやや見開いて瞬きしたルフィだ。

 「でも、別にいいじゃんか。
  今日は顔を合わせたけど、
  それこそ見ず知らずのままになってた相手なんだし。」

ああ、卵を真ん中へ入れたらダメだと、
ゾロの手際を制して押し返す奥方であり、

 「それとも何か?
  実は次の商談で
  ここのスーパーとプロモーション対決する予定があって、
  だから弱点を知られちゃあ不味いのか?」

 「……そんなワケがあるかい。」

確かに親会社は大きなチェーン展開をしているスーパーだが、
何でまた、最寄りの支店の売り場のお兄さんと、
この冬のニューカマー鍋のセールスポイントは…なんてな議題で
丁々発止とやり合わにゃあならんのだと、
いやに具体的に言うものだから、

 「〜〜〜いかん、
  白ネギ持ってビシィッて指摘してるゾロが浮かんで
  チョー受ける。//////」

 「妙なもん、想像してんじゃねぇわ。」

背広の裾が風にはためいててさ、
土鍋のスライドをバックに、真剣真顔でプレゼンしてんのと、
商品をバッグへ詰めるためのテーブルを叩いて大笑い。
自分で思いついたシチュエーションで大受けしておれば世話はなく、

 「で? 結局、何にしたんだ?」
 「うん。
  タラの良いのがあるよって言われたから、
  それとホタテとエビでちり鍋だ。」

エビは バナメイじゃなくてブラックタイガーだぞ?
もうネタにしてんだな、それ…と。
商社勤務のご亭主には微妙に笑えぬネタなのへ、
あははとそれは快活に笑い飛ばした童顔の奥方。
さあ帰ろう、実は鷄カラも揚げる予定なんだ、
うんまいタレに漬け込んであるぞと、
自分が楽しみなものか、満面の笑みになってる無邪気な伴侶様なのへ、

 「ああ、早く帰ろうな。」

目許を和ませる旦那様。
自動ドアの外はひゅうぅんと冷たい風が吹いてて、
おっとぉと立ち止まったルフィが、
バッグからニット帽を取り出し、耳まで覆うように深々かぶる。
天辺にポンポンのついたかわいらしいタイプので、
両手がかりでかぶったそんな仕草がまた、何とも愛らしく、

 “まさかとは思うが…。”

どんなに愛らしくとも、ちょいと細身であろうと、
女の子みたいな装いが似合おうと、
一応は一見して男と判ろう体格じゃああるルフィであり。
ましてや、こんな煌々と明るい店内で、
女性の若奥さんと間違えられることはなかろうが。

 “妙に馴れ馴れしい兄ちゃんだったよなぁ。”

それは朗らかで愛想の良いチーフさんであったのが、
妙に気になったらしいゾロであり。

 「ゾロ? どした?」

 「あ? ああいや、うん。」

めずらしくも気が逸れておいでの旦那様、
妙な悋気が沸いたのを“まさかなぁ”と頭を振っての振り払ってしまったが、


 バックヤードの一角で、
 あんな恐持ての旦那がいたのかあの奥さんと、
 がっくり肩を落としておいでの
 チーフさんだったりする辺り。

  勘は鈍っておりません、剣豪様。
  奥方の腕に縒りかけた温かい鍋と唐揚げで、
  寒さも吹き飛ばしの、夫婦円満をご堪能くださいませね?




  
HAPPY BIRTHDAY! TO ZORO!


  〜おそまつっ〜  13.11.11.


  *あんまりお誕生日と関係のないお話になっちゃったかな?
   急に寒くなったんで、ついつい温かい鍋が恋しくなりまして。
   ちなみに、もーりんもすき焼き派です。
   理由は、ポン酢が苦手だから。(子供か)


**ご感想はこちらvv*めるふぉvv

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